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今日の松島湾は静かな海だが、浜辺まで降りるとカキの殻が無数に打ち上げられていた。

松島湾のカキ養殖場は、言うまでもなく津波で巨大な被害を受けた。

松島湾の被害は、基礎の部分の水産業の傷が大きくて、観光業の復興が表層にすら思えてしまう。あまり明るいことを軽々しく言えないのが、つらい。

夕方に、電車で仙台市内に戻った。

仙石線の電車は、宮城野の地区を通り過ぎていった。

かつて、「宮城野の萩」で有名であった原野である。

江戸時代でもわずかに残っていたらしくて、「仙台市史」によれば仙台藩がこの地区で萩の野を保存していたという。今は、見たところ完全に市街地化している。萩(はぎ)は、日本固有の花である。もともと中国でこの「萩(シュウ)」の字はヨモギを意味していたのであり、これに日本で秋に咲く赤い小さな野草を当てたのは、日本人である。「くさかんむりに、秋」の字から連想させるべき花だったからであろう。

萩はその字のとおり秋半ばごろに咲く花であるが、その姿は華やかとは言えない。ひっそりと咲く、趣である。歴史をよく知らない人が萩の花を見たら、おそらく雑草の花と思って軽んじるであろう。

下の写真は、私が京都の梨木神社(なしきじんじゃ)で、萩と蝶を秋に撮ったもの。この旅行では、萩の花は季節外れ。

やがて、地下の仙台駅に再び着いた。

今日の旅のよい記念として、市内で塩竃の銘酒「浦霞」を買って、ホテルで静かに飲んだ。

買ったのは純米酒であったが、香気が高いというべきか、癖があるというべきであろうか。酒だけで完結して、他に肴(さかな)がいらないと思わせる。そんな、酒の味であった。

以上で、この日についてのことを、ようやく書き終える。

(小田 光男)