2012年9月10日(月)、京都烏丸御池の「Samurai Cafe & Bar SHISHIN(士心)」にて、第四回字天ナイトを開催いたしました。

当日のライブの、活動報告です。

第四回目の字天ナイトもまた書家の八木翠月先生にご臨席いただき、小田の「新ことば」を即興で書にしたためていただきました。
当日は、「三国志ナイト」と称して、古代中国の三国志にまつわるエピソードから、小田が「新ことば」のヒントを取り上げました。

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まず最初に「新ことば」を贈らせていただいたのは、三条葵さん。

倩川(せんせん、またはせんかわ・せんのかわ)。

そのこころは、「美しい笑みのように清らかな、川の流れ。」

三条さんは京都を中心にご活動しておられ、和装に興味を持たれて、みずから和装の細部まで再現なされていると伺いました。好きこそものの上手なれとは申しますが、今の時代にここまで好きの道を究められるお姿を拝見して、小田は思わず「数寄(すき)」の二字を思い浮かべました。「数寄」は日本の粋人たちが理想とした、趣味を極めて芸術に至る道。三条さんの「数寄」の二字にふさわしい好きの道に、感服いたしました。これからも、さらに極められることでしょう。

三条さんは、自らの道をもっと多くの方に知ってもらいたい、ということでした。京都を愛し、和装を愛する三条さんの道が、今後もっと多くの人に知られて楽しまれることを、お祈りいたします。

さて、小田がそんな三条さんのために考案した「新ことば」です。

中国古典の『詩経』から、華やかな詩(うた)を取り上げて、一字を選びました。

巧笑、倩(せん)たり
美目、盼(はん)たり

-詩経、「碩人」(せきじん)より。

これに逸詩として『論語』に挙げられている「素もて絢(あや)となす」を足して、やまとことばに直します。

くちもとのえみのうるはしめのきよし
しろきいともてひきたつるあや

口元の笑みの麗し目の清し
白き糸もて引き立つる絢(あや)

これは、いにしえの時代の中国で、斉国の姫君の美しさと、絢(あや)すなわち色鮮やかな装束の華やかさを詠んだ詩の一句です。
この中から、笑みの美しさを意味する「倩(せん)」の字を、選ばせていただきました。
その字に、響きよい「川」の一字を加えました。
「川」は、京都の情景を表す字として、ふさわしいと小田は思いました。京都は、白川や高瀬川のように、細く清らかな水の流れが似合います。関東ならば利根の大河や多摩川・荒川のようなゆったりとした流れが情景にふさわしく、むしろ「河」や「江」の字が思い浮かぶところです。しかし、京都は「川」の字のほうがよい。上の「倩(せん)」の字と「川」の字を加えて、古典の文学と京都の街の長い歴史を編み込んだ、美しい二字「倩川」を選ばせていただきました。

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続いて「新ことば」を贈らせていただいたのは、蔡文姫(仮名)さん。

會心喜笑(かいしんきしょう)

そのこころは、「心に思うとおりとなり、時の流れを越えて喜び笑うこと。」

蔡さんは、東京出身で神奈川在住でありながら、かつて京都にお住まいであってこの日もお母様の京都の別邸にいらっしゃったと伺いました。
お話をお伺いすれば、お家は旧会津藩の家柄であり、黒谷金戒光明寺の会津藩墓所に、幕末に在京して京都の地に倒れたご先祖の墓がおありだと伺いました。さらにご実家は戊辰戦争から日本近代史に名を残す旧会津藩家のことであるというお話。その深い歴史と京都との因縁、私ごときが何をか申しましょう。

黒谷の墓所にあまりに多数並んだ会津藩士たちの墓のこと、また戊辰以降の柴家の壮烈な歴史のことを想うと、私はまず最初の一文字に「會」の字を選ばずにはいられませんでした。
しかしながら、蔡さんのお話を伺い、またお母様のお話も伺ったとき、なんともまあ明るい気分となりました。お書きいただいたアンケートでは、「豊かな実が成り、満願成就」の相を、蔡さんは好まれた。まさしく、豊かな花も実もあるお姿であるなあと、お話を伺って思いました。

それで、「會心(かいしん)」と字を続けました。心に会い、思うとおりである、胸がすく晴れやかさ。私は、お二人には会津の歴史を大切にする一家でありながら、間もなく幕末から150年を過ぎようとしている今の時代に心晴れやに生きておられるようなお姿を感じて、「會心(かいしん)」と明るい表現に変えさせていただきました。

しかし、「會心」つまり「会心」は既存の熟語で、辞書に既出です。私はそこに継ぎ足すために、今夜のために読んでいた北宋の詩人蘇軾(そしょく)の『前赤壁賦』から引用を加えさせていただきました。

- 客 喜ビテ笑ヒ、盞(さん)ヲ洗ヒテ更ニ酌ム。

諸行無常の憂いは世の理(ことわり)であるが、しかし個物は移ろえども天地は尽きず、さらなる後世に続いていく。今、ここに客と私とともに江上の絶景を楽しみ、月を愛でて酒を酌んでいる。こうして無限の天地が、この私たちに楽しみを与えてくれて、これを楽しむことを誰も禁じはしない。ならば、楽しもうではありませんか、、、この主人の言葉に、さきほどまで人生の無常を嘆じていた客は転じて喜び笑い、さらに一杯を酌んだ-

この名文の一景と、今夜のことを重ね合わせ、「喜、笑」の二字を付け加えました。歴史は長く、人は相継ぎ、今は喜ばしき笑いがある。これらの情景を合い混ぜて、「會、心、喜、笑」の四字を選び、今夜の「新ことば」とさせていただきました。


「新ことば」Live字天ナイト at Samurai Cafe & Bar SHISHINは、来月も開催する予定です。
またとない体験を、皆さんもどうかお試しください。初見の方、大歓迎です!